
投稿日:2023/8/16
更新日:2025/12/15
これまで100社以上の企業に採用コンサルティングを実施してきたWOKE株式会社の北原さんを講師にお招きし、人的資本の情報開示を採用に生かすための具体的な手法としてRJP理論を活かした具体的な実践方法を解説していただきました。
2023年7月20日(木)に、HERP主催で『スタートアップの採用担当者が知っておくべき 人的資本情報開示のポイントと実践のための「RJP」理論』と題したセミナーを開催しました。
2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化され、採用や育成、労働環境に関する情報がオープンにされる流れができつつあります。この流れは上場企業だけに留まらずスタートアップにおいても顕著です。むしろ裁量権が大きく経営者との距離の近いスタートアップの方が、自社を魅力付けする上で情報開示の重要性は高く、候補者からのニーズも強いと言えます。そこで注目されるのが、RJP理論です。
WOKE株式会社の北原さんに、人的資本の情報開示がスタートアップにおいて求められる背景からRJP理論の概要や具体的な実践方法まで詳しく話を伺いました。本記事では当日の内容を紹介します。
WOKE株式会社 取締役 北原 航
■2005~2021年 パーソルキャリアで、採用に関する幅広い業務を経験
■2022年~ WOKE株式会社の取締役として「採用DX」事業を担当
企業の採用設計・ブランディング・ナーチャリングに関するコンサルティング/セミナー講師(人事・経営者向け・学生・転職者向け)/採用動画・資料・説明会の企画/オウンドメディアの設計/地方創生事業(「採用専門学校」の運営)など
株式会社HERP 冨田 真吾
新卒で、株式会社ビービットに入社。デジタルサービスのUXコンサルティングに従事したのち、SaaS型の分析クラウドのインサイドセールスチームの立ち上げ、プライシング戦略の立案などに従事。HERPに参画後はレベニューマネージャーとしてビジネス組織の立ち上げをしながら、100社以上の採用支援を担当。ビジネスチームの採用・組織づくりも担っている。
冨田:本日のテーマは人的資本開示とRJP(=Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)理論についてとなります。みなさん、RJP理論をご存知でしょうか。今日は基礎の部分から、自社に活かせることはないかというところまでお話しできればと思います。
本日のゴールは2点です。
人的資本開示が求められる背景とスタートアップ企業として気をつけるべきことを理解する
RJP理論の概要と自社での具体的な生かし方を持ち帰る
前半は知識としての理解と、後半は具体的な生かし方を事例を交えながらお話します。それでは北原さんにバトンタッチいたします。
北原:よろしくお願いします。前半部分はアカデミックな、知識として覚えていただきたい内容をお話しします。後半は実践編としてRJPの話をしていきます。
人的資本という言葉は聞いたことはあるけれど、説明してくださいと言われたら自信がないという方が多いのではないのでしょうか。

北原:2023年から上場企業に対して人的資本の情報開示が義務付けられました。そもそも「人的資本」とは何を意味するのか。まずおさえておくこととして、人的資本の対になる言葉は「人的資源」です。人的資源とは「従業員は消費する資源=コスト」という考え方で、資源はなるべく抑えようとする発想になります。
対して本日のテーマである「人的資本」は、「従業員は価値を生み出す資本」と考え、組織の成長のために価値を生み出すよう投資するという考え方です。こういった人的資本の情報開示を、政府が上場企業にお願いしています。その人的資本がなぜ最近になって言われ始めたのか。
2022年の世界時価総額上位50のうち、日本の企業が何社入っているかみなさんご存知でしょうか。31位に1社入っているだけなんです。(2023年7月20日時点)

北原:一方歴史を遡り1989年、バブルの時期の世界時価総額上位50のうちの日本企業は32社。上位10社のうち7社が日本だったんです。日本企業の成長に世界が注目していました。
これと人的資本がどう関係しているのか。当時注目されていたのは終身雇用や年功序列とよばれる日本独自の経営手法です。「人を大切にする」経営ともいえますよね。これが人的「資源」経営に変わったのはなぜかというと、バブルがはじけたためにコストカットが叫ばれたからです。「失われた30年」と呼ばれ長期にわたる停滞を招いてしまいました。そこで人を大切にしないと成長できないという意識、つまり人的資本経営、人を大切にし投資をしていくやり方に戻ってきたというのが、人的資本の情報開示をめぐるここ30年の流れです。
しかし、今は終身雇用や年功序列が崩れていますので、現代の形に合わせなければいけない。昔の日本企業がやっていたことを現代に合わせてやっていこうとしているのが、最近言われている人的資本経営です。
北原:ポイントは人的資本経営をするだけでなく、開示するということ。人的資本の開示と採用は非常に近しい関係にあることがわかっています。
人的資本の開示に関して重視する要素で、企業が最も意識している項目は次のうちいったいどれでしょうか。
株価への反映
優秀人材採用の増加
企業認知度の向上
もともと「開示」という観点で言うと株主からの要求もあったわけです。投資をしている対象として人的資本経営をしているか開示してほしいという要求ですね。そして今、実際に経営層はどう考えているのかというと、答えとしては「優秀人材の採用実績の増加」と「新卒採用エントリーの増加」を重視しています。

北原:もともとは株主をはじめとするステークホルダーへのアンサーだったのですが、今、上場企業の役員陣が意識しているのは「人材の採用につながるのではないか」という期待です。
今の学生や求職者は、自分を大切にしてくれる会社や、自分が成長できる会社に入社したいと考えています。人的資本、つまり人に投資をしていない会社には入りたくないわけです。ですから企業が人的資本の情報開示をして「自分の会社は人に投資をしていますよ」と言えれば、優秀人材の獲得につながり、志望数が増えるというわけです。だから上場企業の経営陣は人的情報の開示が採用につながるのを期待しているのです。

北原:もうひとつ面白いデータがあります。人的資本の情報開示は上場企業に求められているものです。しかし、上場企業だけの問題なのか?というとそうではないというデータが出ています。
企業の役員層・人事部長に対する調査の結果、人的資本の情報開示に関する議論を「最優先事項として」いる、もしくは「優先度高く」している割合が、非上場企業で40.2%にのぼります。
義務付けされている上場企業と、義務付けされていない非上場企業で15%ほどの差です。上場企業への義務化に引っ張られて非上場企業の意識も変わっている、日本全体で人的資本の情報開示への意識が高まっているということです。

投資家や経営者だけでなく、就活生や転職希望者、採用担当者も人的資本の情報開示を意識し、上場企業だけでなくスタートアップや中小企業も対応していこうとする流れができつつあります。人的資本情報の開示はトレンドではなく、スタンダードへ変わりつつあるのです。
冨田さん、ここまでで質問はございますか。
冨田:私は資源と資本の違いについて考えてみました。物資やブランド資本や知財と並んで人的資本をトレンドとして考えるのが重要なのだと思います。スタートアップの資本でいうと、お金は集められるのに人を集められない事態が起きていますよね。
北原:スタートアップは二極化していると思います。「この人は自社の成長に着いてこられないから」とお別れを告げる企業と、「いや、一度仲間になったんだから」と投資して育てていこうとする企業。
冨田:この5年くらいを見ていても、人を育てない会社は求職者に選ばれないんだという感覚があります。また、数年前まではスタートアップに福利厚生を求めてはいけないという意識が求職者にもあったと思います。でも今は両立しているのが当たり前ですよね。
北原:人に投資していくという考えがないと、スタートアップは採用競争に勝てない時代だと考えています。
冨田:スタートアップはそこに投資しないと、人に頼らないと成長していけないですからね。
北原:情報開示をしていくのがスタンダード。となると、どんな情報をどのように開示するのか、情報の質が問われるフェーズに入っていきます。その答えの一つがRJPです。

北原:これは入社した人が企業に対する入社前後の印象の変化です。これをみると「期待をやや下回っている」の割合がトップ。多くの方がギャップを感じているということです。

北原:さらに現代はZ世代を中心に、候補者自身が自分で事前に情報を集めたいと行動しています。そこで会社のホームページを見るわけですが、約6割が採用ページの情報が十分ではないと感じています。そうすると不満を感じ応募しない、入社を希望しないわけです。
採用系のツールが整っていないという事情もあるかもしれませんが、こういった情報不足が招くギャップが入社後の定着率の低下につながってしまう可能性があります。
では実際に求職者が知りたい情報は何なのかというと「リアル」です。

北原:実際の仕事内容や残業や休日出勤の実態。嘘の情報や加工された情報はいらないんです。求職者は数年先の自分の姿をイメージできる情報を求めています。企業は求められている情報が何かを理解しながら人的情報開示をしていかないと、これからの採用競争に勝てないのです。

北原:その一番わかりやすい例が「RJP=Realistic Job Preview(現実的な仕事情報の事前開示)」。私は今後のトレンドになってくると考えているので、皆様もぜひ今のうちから押さえておいてほしいですね。
RJPって実はアカデミックな言葉なんです。1970年台にアメリカで提唱された理論で、最近日本でも注目されるようになりました。日本では神戸大学大学院の服部泰宏氏らによって導入が提唱されています。
なぜ大切なのか、4つあると言われています。
(1)セルフ・スクリーニング効果
よく面接官トレーニングをしていると「見極めがしきれない」と聞きます。しかしある一定のところでこちらからの見極めには限界がきます。そこで相手に見極めてもらうのです。そのためには候補者が見極められる情報が必要です。
(2)ワクチン効果
これは期待値のコントロールにもつながります。ネガティブな情報も伝えましょうということですね、悪いショックやギャップを和らげる効果があると言われています。
(3)コミットメント効果
「ありのままの情報を提示する会社は自分に誠実に向き合ってくれる。だから自分もこの会社のために頑張りたい」とエンゲージメントがあがるという効果です。スタートアップにとって、ここは重要だと思います。
(4)役割明確化効果
「自分が何を期待されていて、何をこの会社でやるのかがわからなくなってしまった」というのはスタートアップでよく起こることかと思います。変化が多いのはスタートアップの特徴でもありますが、候補者にどんなミッションを与え、どんな期待をしているのか。明確に伝えることで「応えたい」という気持ちが生まれます。
こうした入社後の活躍につながる効果が、アカデミックに提唱されているのです。
この後の具体的な事例でお話もしたいのですが、解像度の高い情報提供というのは、気軽に会社に来ていただくよう声をかけたり、ミートアップだったりとスタートアップではすでに取り組んでいるところも多いと思います。それをより意識的に進めていくと、企業側と候補者側、お互いにハッピーになれるというわけです。
人的情報の開示について大企業が取り組みはじめていますが、ある問題があります。それは誰が責任を持つのかわからないということです。人事部なのか広報なのか、ボールの投げ合いになり経営企画室が拾うというパターンが多い。実は大企業や上場企業は人的情報開示にとても頭を悩ませているんですよね。しかし、うまくできている企業は適切に人的情報を開示し支持を集めつつあります。
次からその具体的な事例をご紹介します。

北原:RJP、つまりリアルを伝えるとなると、一定の拒否反応が起こり得ます。どんな拒否反応かというと、「うちのリアルを伝えたら誰もこなくなってしまうのか」というものです。
そもそも、そんな状態で採用してはいけないのですが、ネガティブな情報をそのままネガティブに伝えたらそれで終了です。ネガティブな現状に対して、どんな背景があって発生しているのか、どんなゴールを設定していてどのように解決するために取り組んでいるのか。そこまで含めて情報を開示していく姿勢が重要になります。
たとえば次のような求人情報でよくみられる項目を、RJP的に言い換えてみます。
平均残業時間→「毎月の残業時間の推移」
「平均残業時間20時間」と書いてあると候補者は「残業時間が多い」「残業20時間が常態化しているのか」という印象を抱きます。この書き方では解像度が低く、「平均ってなに?」と思うでしょう。たとえば冨田さんの1月の残業時間と、今月の残業時間が一緒かというと多分違うと思うんです。実際は繁忙期やプロジェクトの進行状況によって変わってくるものです。職種によっても異なりますよね。
1月の残業時間、2月の残業時間と月ごとに書いたり、営業の場合、エンジニアの場合と職種別に書いたりすることで解像度高く残業時間の実態を伝えられます。
文章による仕事内容の説明→「一日密着の動画」
たとえば、小さな子どもに自転車の乗り方を教えるときはどうしますか。「サドルに腰掛けて、右手と左手でハンドルを持って……」と言葉だけで伝えるのは難しいと思います。私だったら、息子に自転車の乗り方を教えるときにはYouTubeを見せたり、自分の乗っている姿を見せたりすると思います。そうするとすぐに吸収して乗れるようになる。
大人も同じです。仕事内容も文章で伝えようとするとなかなか伝わりにくい。それよりも動画にしたほうが圧倒的に分かりやすいです。密着動画といっても、もちろん編集やカットができてしまいますが、情報の加工があまりされていない印象を抱いてもらいやすくなります。
人事が仕事内容を説明→現場の先輩が仕事内容を説明
また、現場の先輩が仕事内容を説明するのもおすすめです。エンジニアの採用であれば、一緒に仕事をする社内のエンジニアに直接話してもらった方が、候補者との間に人事を挟むよりも解像度の高い情報を届けられます。
キャリアパス→5年目の先輩のキャリア遍歴
スタートアップのキャリアパスを明確に提示するのは難しいと思います。しかし、たとえば冨田さんがHERPに入社してからのキャリアパスを話したらとてもリアルじゃないですか。
一般的な求人情報を書くときも、RJPを意識して書くと開示の仕方が変わってきます。一気にできなくてもいいので、徐々にできる部分からRJP的コンテンツを増やしていくのがおすすめです。

北原:ではそのコンテンツをどうやって届けるのか。HPやオンラインの情報発信だと伝わりきらない情報があるかと思うので、説明会やオフィスへの訪問、新卒採用であればインターンなどはリアルな情報を伝えられます。まさにRJP的な取り組みです。積極的に直接会える機会を作ることをスタートアップは意識していただくといいと思います。

北原:あと、私がぜひやっていただきたいと思うのはSNSやオウンドメディアです。オウンドメディアまでできなくともせめてSNS。スタートアップの企業ですと、すでにSNSに取り組んでいる企業は多いと思います。
そのときにどんな内容のコンテンツを発信していくのか。堅苦しい内容や添加物まみれの加工をしたコンテンツを発信しても意味がありません。SNSはコンテンツが自由なのが特徴ですから、RJP的なリアルな社風を伝えていくのが有効です。
たとえばインタビュー動画もよくあると思うのですが、私、実はあまり好きではなくて。というのも、インタビューすると決めて撮影する動画はかなり加工されたコンテンツだと思うからです。普段着ないスーツを着たり、普段思ってもないことをインタビュー用に話してしまったり、緊張して姿勢を整えてしまったりなど普段の姿と変わってしまう。それでは全然意味がないんです。
それよりもパッと社内の様子を撮影した動画をリールに載せた方がリアルだし簡単。「北原さん、なんでうちに入社したんですか?どうして辞めなかったんですか?」と軽く話したものを流す。これでもいいんです。
SNSはRJP的な取り組みとも相性が良く、しかも無料です。ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

北原:スタートアップであれば、まだ口コミは書かれていないかもしれませんが、実は口コミサイトもコンテンツになるんです。
口コミを見られるのって嫌だな、という意識はあると思います。勝手に書かれたものを勝手に見られて勝手に解釈されて勝手に辞退されてしまう。それを防ぐためにも、自分達も一緒に見てしまおうという考えです。
過去に「口コミサイト検証セミナー」をしたことがあります。口コミサイトに書かれていることを人事の方と一緒に確認するんです。たとえば、ここに書かれている名古屋営業所のパワハラ事案。これが実際にあったのか、参加している人事の方に聞いたところ事実だったそうです。しかしその事案をきっかけに会社側が問題を把握し、営業所のマネージャーに研修を実施し、2019年以降名古屋営業所の離職者はおらず、満足度が上がっています。
「それは事実ですが、対応を講じて今はこんなふうに変わっています」
このように話すのがRJP的なリアルの伝え方です。口コミサイト検証セミナーはかなり反応がよかったセミナーでした。

北原:若手社員が求人票に赤入れをする方法もあります。「一日の流れ」というのもよくありますが、「そんなの体験したことない」ってことありませんか。ここを実際に働いている若手社員に赤入れをしてもらい、求人票をリアルに近づける。

北原:説明会ならば、Zoomを利用して中継するのもおすすめです。私がよくやるのは、カメラ(iPadなど)を持ってそのままオフィスに入っていくスタイルですね。動画をつないで中継ができます。Zoomであれば、複数拠点をつなぐことも可能ですよね。

北原:RJP的コンテンツについて私は4Sと呼んでいます。特に「密着取材」はおすすめです。本当に雰囲気が出ますし、RJP的な取り組みとしては最強のコンテンツだと思うので取り組んでみていただければと思います。



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