
投稿日:2026/1/9
更新日:2026/1/8
「従業員満足度調査を行っているものの、改善にうまく活かせない」「離職の兆候をもっと早く察知したい」といった課題を抱える人事担当者の方は少なくありません。
従来の従業員満足度調査は、「なんとなく満足」という回答が集まりがちで、本当の課題が見えにくい側面があります。そこで、より明確な指標として「eNPS」を取り入れる企業が増えてきました。
この記事では、eNPSの基本的な意味から、効果的な質問の作り方、そして数値を組織改善につなげるための具体的な運用ポイントについて解説します。

eNPSは「Employee Net Promoter Score(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)」の略で、日本語では「従業員の推奨度」と訳されます。シンプルに言えば、「自分の職場を、親しい友人や家族にどれくらい勧めたいか」を数値化したものです。
もともとは、顧客の愛着度(ロイヤルティ)を測る「NPS」という指標があり、それをAppleが従業員向けに応用したことで広まりました。
計算方法は以下の通りです。
従業員に「親しい友人や家族に、あなたの職場で働くことをどの程度勧めたいですか?」と質問し、0〜10点の11段階で回答してもらいます。
回答者を以下の3つのグループに分けます。
推奨者(9〜10点): 職場に愛着を持ち、知人に積極的に勧めたい人
中立者(7〜8点): 大きな不満はないものの、強く勧めるほどではない人
批判者(0〜6点): 何らかの不満を抱えている、または愛着が低い人
「推奨者の割合(%)」から「批判者の割合(%)」を引いた値がeNPSになります。
例えば、推奨者が30%、中立者が40%、批判者が30%の場合、eNPSは「30 − 30 = 0」となります。
計算式は顧客向けのNPSと同じですが、対象が「従業員」であることが最大の違いです。
eNPSが高い企業は、従業員が自社の商品やサービスに自信を持っていることが多く、結果として顧客向けのNPSも高くなりやすいという相関関係が指摘されています。

なぜ今、従来の満足度調査ではなくeNPSが選ばれているのでしょうか。現場での運用メリットとして、主に以下の3点が挙げられます。
一般的な満足度調査で「満足していますか?」と聞かれると、多くの人は無難に「満足している」と答えがちです。
しかし、「大切な友人に勧められるか」という質問には心理的な責任感が伴います。「自信を持って勧められない職場には、高い点数をつけられない」という心理が働くため、より本音に近いシビアな数値が得られます。
eNPSのスコアが低い従業員は、離職を検討している可能性が高いと言われています。逆にスコアが高ければ定着率は高まります。将来的な離職リスクを早期に発見するための「センサー」としての役割が期待できます。
これは人事担当者にとって見逃せないポイントです。eNPSを向上させる施策は、結果として「自社を友人に紹介したい人」を増やすことにつながります。
リファラル採用(社員紹介による採用)が活性化すれば、採用マッチングの精度が上がるだけでなく、採用コストの大幅な削減という副次効果も期待できます。
調査の核となるのは以下の質問です。
「親しい友人や家族から『あなたの職場で働きたい』と言われたとき、推奨する度合いはどれくらいですか?(0〜10点で回答)」
推奨度スコアだけでは「なぜその点数なのか」が分からないため、要因を探る追加質問が必要です。しかし、安易に自由記述で「その点数をつけた理由を教えてください」と聞くのはおすすめしません。
単純に理由を聞くと、「〇〇部長の態度が悪い」「給料が安い」といった個人の愚痴や不満の羅列になりがちだからです。これでは組織的な改善策に落とし込めず、特定の個人への攻撃になりかねません。
建設的なデータを集めるには、以下のような工夫が有効です。
A:選択式で構造的な要因を探る
「仕事のやりがい」「業務ツール」「福利厚生」「チームの支援体制」といった項目を用意し、チェックボックス形式で回答してもらいます。これにより、特定の個人ではなく「仕組み」や「環境」に焦点を当てることができます。
B:質問の聞き方を変える
自由記述を設ける場合は、前向きな改善案が出るような聞き方に変えます。
「友人にこの職場を勧めるとしたら、一番の自慢ポイントは何ですか?」
「友人に自信を持って勧めるために、会社が一つだけ変えられるとしたら、何を変えますか?」
こうした問いかけであれば、単なる不満ではなく「具体的な改善のヒント」が集まりやすくなります。
eNPSは「推奨者引く批判者」で算出されるため、同じスコアでも中身が全く違うことがあります。
例えば、スコアが同じ「0」でも、以下の2パターンでは意味合いが異なります。
パターンA: 推奨者30%、中立者40%、批判者30%
パターンB: 推奨者10%、中立者80%、批判者10%
注意が必要なのは、実はパターンBです。
一見すると批判者が少なく平和に見えますが、これは「特に不満はないけれど、この会社である強い理由もない」という人が大半を占めている状態です。より条件の良い会社があればすぐに転職してしまう可能性があり、問題が顕在化しにくい分、対策が遅れるリスクがあります。
全社の平均スコアだけを見ていると、組織内の偏りを見逃してしまいます。
「本社は高いが、現場は低い」「若手は高いが、中堅層が著しく低い」といった傾向がないか、部署や入社年次、役職などで分けて分析を行います。どこに構造的な歪みがあるかを特定することが、改善の第一歩です。
調査後に最も重要なフェーズです。ここでやり方を間違えると、組織の雰囲気を悪くしてしまう恐れがあります。
スコアが低かった部署に対して「誰が低い点数をつけたのか」「管理職の誰に原因があるのか」といった犯人探しをしてはいけません。
「本音を書くと不利益がある」と従業員が感じた瞬間、心理的安全性は崩壊し、次回の調査から正直な回答が得られなくなります。
eNPSは「通信簿」ではなく、組織の「健康診断」です。
「誰(Who)」が悪いのではなく、「何(What)」がうまくいっていないのか。組織の構造や仕組みに目を向ける姿勢を人事・経営層が示すことが大切です。
人事だけで改善策を決めて通達するのではなく、現場を巻き込んだ対話の場を設けるのが効果的です。
「今回の結果はこうだったが、理想と現状にはどんなギャップがあるか」「自分たちのチームで変えられることは何か」を話し合います。
会社として変えられること、すぐには変えられないことを正直に伝えつつ、相互にフィードバックし合うプロセス自体が、エンゲージメントを高めるきっかけになります。
全ての課題を一度に解決するのは不可能です。「eNPSへの影響度が大きく、かつ現状の満足度が低い項目」から優先的に取り組みます。
施策を実行したら、次の調査で効果を検証する。変化がなければ別の方法を試す。このサイクルを回し続けることで、組織は少しずつ変わっていきます。
eNPSは、従業員のエンゲージメントをシンプルに可視化できる強力なツールです。しかし、スコアを測ること自体がゴールではありません。
大切なのは、そこから得られた「現場の声」に向き合い、対話を通じて組織の仕組みをより良くしていくプロセスそのものです。
まずは次の四半期から、シンプルな形でeNPS調査を始めてみてはいかがでしょうか。
株式会社ビービット「eNPSは何によって上がるのか ー16業界eNPS調査結果」(2017年):日本企業の平均eNPSは-61.1。業界別では官公庁・自治体・公共団体が-41.3でトップ、出版・印刷関連産業、サービス業、運輸・運送業は-70を下回る結果。
NTTコム オンライン「eNPS業界別分析レポート」:eNPSが高い企業は売上の年平均成長率も高くなる傾向。
ギャラップ社「State of the Global Workplace」(2017年):エンゲージメントが高い従業員の割合は、世界平均15%に対し日本は6%(139か国中132位)。

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