
投稿日:2021/3/3
更新日:2023/7/10
急成長を遂げるベンチャー企業には必ずCEOを支えるCxO陣がいる。しかし、彼らの活躍や魅力は外部からは十分にはわからない。特にCOOというポジションは範囲が広く、役割も曖昧に見えがち。
本連載ではCOOというポジションで最前線を走る方々へのインタビューを通じて、COOというポジションの意味合い・役割・必要な要素などを丸裸にしていきたい。
第3回のゲストは、freeeの尾形将行さん。キャリア観からfreeeのCOOとして大切にしていることを語ってもらいました。
ゲスト:freee株式会社取締役COO 尾形 将行

freee株式会社取締役COO。総務省、内閣官房、外務省、アクセンチュアを経て、クラウドの活用により日本の中小企業の生産性を世界水準に向上させることを目指し同社に参画。スタンフォード大学ロースクール修士、香港科学技術大学MBA取得。
インタビュアー:株式会社HERP取締役COO 徳永 遼

京都大学法学部卒業後、2012年に株式会社ビービットに入社。2017年3月よりHERPに参画。ビジネス、開発、コーポレートなんでもやる。本連載ではCOOの方々にひたすら質問して深掘りをしていく役回り。富永:本日は、よろしくお願いいたします!尾形さんは、ファーストキャリアを総務省からスタートして、アクセンチュアでのコンサル業務を経てfreeeに入られるという異色の経歴ですよね。
尾形:こちらこそ、よろしくお願いいたします。よくそう言っていただくのですが、情報・テクノロジーの力を使って生活を豊かにしたいという軸はずっと変わっていなくて、そのフィールドがたまたま公務員・コンサル・ベンチャーだっただけなんです。よくどうして?と聞かれるのですが、自分では一貫していると思っています。
富永:そうなんですね。その軸で選んだ時に、なぜベンチャー企業のfreeeになったのでしょうか。
尾形:最初の接点は、単純に大学の後輩がいたからです。ベンチャーに惹かれたというより、ミッションに惹かれて入社したらたまたまベンチャーだったという感覚です。
富永:たまたまベンチャーということですが、アクセンチュアから当時のfreeeだとまったく違う規模の会社ですよね。葛藤や懸念はなかったんでしょうか?
尾形:懸念はあまりなかったですね。入社前にたくさんの社員と面談したんですが、会う人会う人のバックグラウンドは多様なものの、皆同じようにミッションの話をするので、それに共感できていたら、大丈夫だろうと思っていました。 そもそも何をやるかを大事にいつもキャリアを選んできたので、当時のfreeeは既に100名くらいの組織でしたし、やることも明確だったので、あまり規模などを理由とした抵抗感はなかったですね。
富永:freeeはなぜそんなにミッションが浸透しているのでしょうか。
尾形:価値提供先をスモールビジネスに明確に絞ってるのも一つの要因だと思いますが、採用のタイミングでも、ミッションへの共感をすごい重視していますね。どんな人と働くかは本当に重要だと思っています。面接を受けてくれた人は、「なんでfreeeを希望されるんですか?」と聞かれまくっていると思います。
富永:なるほど。入社は、COO候補としてだったのでしょうか?
尾形:いえいえ、COO候補としては入っていません。ちょうど当時は100名を超えたタイミングで企画系の人材を集めていて、その中で他社との業務連携で非連続な成長をつくろうという話が出ていたようで、それを推進する事業開発マネージャーとして入社をしました。 マネージャーと言ってもメンバーがいるわけではなく、入ってすぐは、連携パートナーとの商談を週に十数件したり、この業界で事業開発に取り組んでいる他社に話を聞きに行って勉強させてもらったりしていました。
富永:最初は外部連携からスタートしたんですね。
尾形:当時freeeの印象って外部パートナーに対してあんまりよくなかったんですよ。一ベンダーでしょ?みたいな。少しでもイメージ向上になったらととにかく走り回ってたので楽しかったですね。会社のほとんどの人が売上を上げることにフォーカスしている中、自分は何かインパクトを出せてるかなという不安はもちろんありましたが。
富永:その次はどんなトライに移っていくのでしょうか?
尾形:資金も調達して、組織も大きくなっていく拡大フェーズの中で、顧客セグメントもだんだん複雑になり、ただ一本調子に投資を継続しがんがんビジネス拡大!というより、戦略的にどこに投資するのか?などを考えないと安定成長しないのではとfreeeの事業課題が変わっていきました。そのタイミングで、その戦略を考える「戦略リーダー」を担うことになりました。
富永:ひとつの大きな転換点ですね。
尾形:そうなんです。でも、戦略チームという名前が一人歩きして、自分たちが目の前のことをやっていれば戦略は戦略リーダーが考えてくれる、と線を引かれてしまうこともありました。機能間で分断が起きてしまったんです。 それだと、なかなか事業が前に進まない。では、責任範囲を明確にして、顧客セグメントごとに責任者が立ったほうがよいのでは?と考え、その後はその推進をしていました。
富永:与えられた役割の範囲で仕事するのではなく、そもそもどうあるべきだっけ?と考えて動かれていたということですね。 その推進が完了してからは、どうミッションは変わっていったのでしょうか?
尾形:法人・個人事業主・アドバイザー(税理士)、と顧客セグメントごとに事業を分けていくのですが、そのタイミングで自分は法人の事業責任者になりました。 その後、時間をかけて複数の事業責任者を兼任するようになりました。最終的に今はプロダクト側の戦略というか企画チームも兼任するようになって、COOという肩書きになりました。
富永:ビジネスサイドで、担当範囲がどんどん広がっていったんですね。肩書がCOOになったのは、どんな経緯だったのでしょうか。
尾形:世の中にいろいろな役割のCOOがいると思いますが、freeeの中でもフェーズに合わせて変化していて、自分がCOOになったのは成り行きの側面が大きかったと思います。
当時のCOOは現CFOの東後が担当していました。いわゆるスタートアップフェーズのCOOとして、CEOの佐々木が明確にミッションを打ち出したあと、そのための事業戦略・組織や制度作りなどの仕組み側を全部担っていました。 組織が大きくなってきて、足元だけでなく、数年後を見据えた事業成長を加速するための財務や組織戦略の重要度が上がり、東後がその領域を担当することになったので、COOとCFOを分けることになって、そこに自分がたまたまハマったという形です。
富永:なるほど、COOの役割もフェーズによって変化するということですね。
尾形:そうです。なので今の自分は明確に、事業責任とプロダクト責任のあるCOOという役割で、主に短期・中期の戦略を見ていますが、また将来役割が変わっていく可能性はあります。
富永:今までの経歴の中で、ここはうまくいったな、ここはうまくいかなかったなと思う時期はありますか?
尾形:振り返ったら全部もっとうまく早くできたなと思うので、いつも50点くらいになっちゃいますね、当時はいつもベストを尽くしているのですが。
富永:ストイックですね…。一番しんどかったのはいつですか?
尾形:ここのマーケットをもっと強化したいぞ!と組織をつくって、注力することで一回事業を伸ばすことには成功するものの、持続しないという経験は葛藤が多かったですね。
まだ顧客への価値提供が十分にできてないうちから、事業拡大しに走りすぎると、やっぱりまだ価値提供が十分じゃなかったねとなりますよね。一方で、ギリギリを攻めていかないと、事業成長しないし、まだ価値提供できていない顧客に一向に価値は届けられない。そのバランスは難しいなと思いました。
富永:それはどうやって乗り越えてきたのでしょうか。
尾形:もちろん目の前で起きていることを粛々と解決していくしかないのですが、先を行っている企業から学ぶということも結構していたと思います。 SaaSのビジネスに対する考え方は、海外で進んでるので、例えばアメリカのトップの企業が何を考え何を数字として見ているのか?というのはずっと勉強してきました。 それを取り入れることで、一定成長できてきたのかなとは思っています。
富永:アメリカのSaaSビジネスを参考にしていたんですね。
尾形:そうですね。例えばアメリカの進んでいる企業は、事業フェーズに合わせて重要なKPIをめちゃめちゃ分解して見ていました。日本の企業は普通は収支で良し悪しをはかりますが、SaaSは収支で見てしまうと大赤字になってしまう。 今でこそ日本でもSaaS企業が当たり前のように重視しなくてはいけないザ・モデル等の顧客獲得モデルやカスタマーサクセスに関する本が出ていたりしますが、まだ当時はなかったので、ダイレクトに海外から勉強させてもらっていました。
富永:なるほど…!
尾形:また、価格戦略も学びましたね。ソフトウェアはシェアを上げるために安ければいいというのが日本でのメジャーな考え方だが、提供できている価値に即したプライシングをしないと、サービスがよくなっていく投資ができず、結果的に長い目で見たらお客さんも満足しないとなってしまう。どうやってプライシングするのがいいか。お客さんにとって中長期で意味があるのか。は一見短期的には矛盾するようですごく考えさせられるテーマです。
富永:ベンチマークしているCOOもいたりしますか?
尾形:当時も今も、海外企業の戦略をベンチマークしていますが、COOに限ると海外の、弊社と同じスタートアップフェーズを抜けたくらいのタイミングのCOOをベンチマークしていますね。 Intercom社、Stripe社、Gusto社等のSaaS企業のCOOの発信は特に注目してきました。全員クリアで分かりやすいストーリーを語れる人で、それぞれ、プロダクトに強い、戦略に強いなど自分の足場みたいなものを持ってる人です。 会社の中の重要なファンクションを起点にドライブさせていける存在ですね。
富永:同じフェーズのCOOを参考にしているんですね。
尾形:はい。一方で、参考にしてた企業に課題感が追いついてきてもいるので、自分たちで考える必要がある、より難しいフェーズに入ってきなと思っています。
富永:尾形さんは事業責任とプロダクト責任両方を持っているわけですが、その両方の責任を果たすには、どんな要素が重要だと考えられますか?
尾形:一番大事なのは、経営目線と現場目線をバランスよく持てることだと思います。 コンサルをやっていた頃に学んだのですが、経営陣が現場やお客さんからの距離が遠いと、収益性等の数字だけで意思決定することになってしまうんです。そうなってしまうとお客さんとどんどん乖離してしまって、提供価値が崩れていってしまう。
富永:なるほど…!
尾形:一方で、人が増えてくると、昔からいる人に話を聞きがちになっちゃうのは今の悩みです。そうなってしまうと、今のお客さんではなく、その人の意見が反映されてしまうんです。規模がどうなろうと、現場の声が拾えて事業づくりやプロダクトづくりに活かしていけるか?これはずっと自分に問いかけていますね。 人が増えると増えるだけこれをやり切るのがしんどいと思っちゃうんですけど、大事にしたいなと思っています。
富永:意思決定が人に寄ってしまうことを避けたいということですね。
尾形:そうなんです。なので自分は、ビジネス組織のレポートラインに入っているというのもありますが、ビジネスチームの声をできるだけ拾って、今何が起きてるのかを誰より把握して、その上で経営目線も持ってどうしたらいいかを皆と考える存在だと自分を位置付けてます。一番現場に近いCxOとして、動くようにしています。
富永:とはいえCOOという役割上、現場からはどんどん離れてしまいますよね?
尾形:そうですね。意識しないと。まさに最近は、社員に話しかけると「役員が話かけてきた!」みたいになっちゃうんです。all handsという全体でのMTGがあるんですが、「all handsで話してる人だ!」みたいな。いいアイデアないですかね?(笑) でも、現場の声が拾いにくいな、で置いておくようになったら終わり[だと思うので、そこはこだわり続けたいですね。
富永:それは意識していかないと難しそうですね。
尾形:そうなんです。 一方でちょっと逆のことを言うようなのですが、プロダクト戦略において陥りがちなのでは、お客さんからいただいたご意見を元に改善していくというものです。 現場の声を拾うということを繰り返し話してきましたが、SaaSのプロダクト作りは受注製作ではないので、お客さんが言う通りに改善していったらうまくいくわけじゃないんです。
富永:確かに…!
尾形:freeeでは、お客さんへの提供価値が上がるには何をやるべきかの大きな方針(OKR)をまず考えてもらって、それに沿って実際に開発も進めます。実際にリリースされてもその効果が上がらないなら企画の優先順位をばんばん変えてもらうという、開発だけではなく企画もアジャイルにやる努力をしています。
富永:勉強になります…。
COOとしてこんな会社にしたいというイメージはありますか?
尾形:理想は、COOが目立たなくてもワークする会社にすることですね。COOが目立って事業をドライブさせてるって企業ってそんなにイケてないと個人的に思っています。全体が自律的に動けて、COOは空気のような存在になっていくのが理想です。
あ、空気だとないと窒息死しちゃうからだめか(笑)
富永:死んでしまいますね(笑)
尾形:でも規模が大きくなってもそういった自律的な組織にできていると、すごい面白い会社だし、働いてくれてる人も面白いと思ってもらえると思うんですよね。 なので、COOが目立たない会社にしていきたいですね。
富永:そういった組織をつくるために意識していることはありますか?
尾形:freeeでは、どんなゴールに向けて何を役割としてるの?というのを個人レベルでも設定して、それが組織ビジョンとつながっている状態を目指しています。それをクリアにした上で、
定期的にメンバーとコミュニケーションをとるようにはしています。
また、先程も触れましたが、どんなに大きくなっても、新しい人とオープン・フラットに話したいし、意識して情報共有をしていくという「あえて、共有する」というfreeeのカルチャーも実践していますね。
加えて、新しいミッションを持った組織をどんどん立ち上げてリーダーを担ってもらう人材を増やすことも意識しています。もちろんその分大変なこともあるのですが。
富永:COOとして、自分の成長のためには何か意識していることはありますか?
尾形:模索中ですね。 でも、常に具体と抽象、現場と経営の行き来が大事だと思っている中で、最近は前者のバランスを上げていきたいと思っています。
富永:具体の方のバランスが足りてないと感じているということでしょうか?
尾形:そうですね。今は事業リーダーをやっていた時に比較してその機会が大きく減ってしまいました。お客さんのところに行って、ぼこぼこに言われたりして、まだ全然足りてないな頑張るぞって思うことってすごく大事だし、社内で打ち出した方針に対してメンバーの人からワクワクしないよね、とか素直なフィードバックを受けたりすることは背筋も伸びるし大事だと思うので、そういう機会をもっとつくりたいし、そういうことに時間を使えるといいなと思っています。具体と抽象を行き来することで、ここまでこれたなとか、まだ足りてないなというFBを取りに行くイメージでしょうか。
富永:なるほど…!
尾形:正しい方向に向かっているかを把握するには、社員と話す、お客さんと話すしかないんですよね。それはこれからもずっとやっていきたいと思っています。 きわめて真面目なことしか話してないけど大丈夫ですか?これが自分の性格なんで仕方ないんですが。
富永:もちろんです。COOとして意識されていること、すごく勉強になりました。ありがとうございました!

COO仕事の流儀第3弾。
やっていることは全く違うように他人からは見えるが、実は軸は一貫していると淡々と語る様子が印象的でした。
常に外から知見を得て勉強し続けていく、常に現場目線を持ち続けようとするスタンスは今の自分にも非常に勉強になりました!
CxOとして会社経営に携わる皆さん、そういったキャリアを目指される方々、ぜひお読みください!
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